萌えと羞恥心


横浜マリナちゃん

NHK新日曜美術館の2005年2月27日の放送で、ベネチアで「オタク」の展覧会が行われた事が取り上げられた。「オタク」とは、近年生まれた造語である。日本で言うオタクと外来語のマニアは意味合いが少々違う。今言われている「オタク」を、自分なりに解釈するのであれば、
「ある価値観を共有してる個人またはその集団が、それ以外の他者から一定の距離を置いてその物事に熱中すること」である
 この「オタク」を解釈することは実はとても困難だ。その理由は個人によってその解釈が様々であって、ある一定の共通した解釈が存在しないためである。このオタクの美意識は「萌え」と言う言葉で表される。萌えとは、本来インターネットなどが普及するにつれて、掲示板やチャットの中で「これに燃える」熱中する、という表現を口外する事の羞恥心を隠すために使われた隠語が定着したものと考えられる。(これには多説あり)
 特に、この萌えと言う言葉が多く使われるのが、主に美少女、美少年系と呼ばれる仮想二次元の女の子、あるいは男の子だ。こういった物でも、特に女の子にこの萌えは適用される。オタクの美意識の萌えは二次元という仮装空間の中への恋い心、現実には存在しない、二次元の可愛い少女という欠けた物への美的表現を表している。オタクにとってこれが詫び、寂びの事だ。冒頭で述べたNHKの新日曜美術館で紹介された「オタクの萌え」も、秋葉原の高架橋を跨ぐ巨大な美少女のフィギア(新横浜アリナ)として紹介されている。
 この萌えでのお笑いは、昨年度発売された「もえたん(萌え単)」と言う(三才ブック社)で発売された書籍にみることができる。この書籍は、表面上は萌え系と言われる可愛い女の子が登場して大学受験用の単語や文章法を解説する、という趣向の参考書(図2)である。これだけでは、この萌えという美に対してのお笑いは見いだせない。しかし、実はこの参考書、裏側のカバーの表紙には、「ハイブリット英単語集」といういかにも参考書的な名前が印刷されているのだ。
 これには、実際に学校で使用可能なように如何にもまじめを装った趣向の作るになっている。こういった物の根本にあるのはやはりこういった物に対する羞恥意識があるからだ。

参考 「萌えたん」 三才ブックス  



表カバーではとても人前での使用はためらうが、この裏カバーでなら他人に本の内容さえ見られなければ読む事ができるだろう。このような「読みたいけど、人前では読めない、だけどやっぱり読みたい、だからまともそうなカバーで隠してしまえ」という行為を、「こんな事をしてまで・・・」と、どこか冷めた視点から自虐的に笑うことがこの本には常に付きまとう。誰もオタクであることをおおっぴらには出さない、あるいは出せない人が多いし、ましてやこういった物をおおっぴらに読むと社会的に下げすまられてしまう可能性もある。そのような羞恥心を隠すために如何にもまじめそうな物を読んでいる様に装っているのだ。そういったものの背景には自分に対する苦笑い的な羞恥の笑いがある事は間違いない。
 萌えは戦後生まれたアニメ、テレビゲームに代表される大衆娯楽文化の最先端の美意識である。また、こうした「萌え」を飾ったイラストや同人誌が、今日コミックマーケットなどで大量に出版されている。こうしたものが現在、美術的な価値を社会的に見いだされなかったとしても、あと100年後あるいは200年後の未来で評価されないとは限らない。それは例えば江戸時代の浮世絵などのように当時では評価されなかった物が、現代になって改めて評価の対象になることなどが数多くあるからだ。現に、こうした萌えが冒頭で述べた様に海外で評価され始めている。だから私は、現在表現の自由が規制という波によって危機に瀕している今こそ、こういった萌えを今後の世に残すべきなのだと思う。