動物を追った日〜現代マタギに出会う〜

冬野の山野に行くと、実に多彩な動物の足跡に出会うことができる。
ウサギや猿、キツネ、テンなど、小動物が野山を駆けめぐった跡が雪面に記録されている。
写真は、ウサギの足跡だ。
後ろ足を蹴って、力強く飛んだ跡が点々と記録されていた。
このような、動物の足跡を追うことをAnimal Trackingと云う。
動物の足跡から、動物の数を特定することは難しい。
二匹だったとしても、二匹が同じ場所で歩き回ればまるで大勢の動物が歩き回った様な足跡になるからだ。

雪山で動物の足跡を見たとき、見分ける方法が一つある。
足跡の付き方を見比べると、それが直線的かそうでないかで、動物の種類をある程度特定できる。
猫などは、足を自分の中心に置いて直線的に歩いていく。それに比べて犬は、自身の足に対して平行に足を置いていく。
このような動物の歩き方で大まかな動物種の特定が可能になってくる。


わかりやすくまとめると、こんな具合だろうか。


冬に行われる狩猟は、主にこのような動物の足跡を追うことから始まる。
動物の足跡が地面に残らない夏場と比べて、冬は格段に狩りの効率が向上するのだ。




「これはテンの足跡だな。今朝方少し雪が降ったべぇ。この足跡には雪が乗ってるがら。んだがぁら、この足跡はその前に歩いたもんだな」




一緒に同行した狩猟者が私に教えてくれたことだった。

先日、ウサギの巻き狩りに同行する機会があった。
動物を追っていると、自然と自分自身も動物の足跡の脇を歩いていることに気づかされる。その方が歩きやすいのだ。
そう考えると、自分自身もやはり人間という動物の一種にすぎないのだとつくづく不思議な気持ちになってしまう。
巻き狩りは、勢子が声を出して追い上げたウサギを一定の場所に布陣した射手が待ちかまえて撃つ狩りだ。
勢子は「ホーイホーイ」と叫びながら、雪山を登るのであるが、急な斜面や雪にかんじきを履いた足を取られるのでなかなか体力が必要だ。
さらに、追う動物をうまく撃ち手側に誘導しなければならないため、他の勢子との連携が求められる。
追われている動物も必死なのだ。

一方、撃ち手側は、動物が接近してくるまでじっと耐え続けなければならない。冬の山の中だ、気温が氷点下になることは希ではない。
冷たい風が当たる体をじっとさせていることも忍耐力が必要だろう。
物音を立てれば、せっかく追ったウサギが別のところへ行ってしまう。
山には入れば動物はいるが、それを狩るためには相当の技術が必要だった。
天候や風向きを見て、下山するかどうかを瞬時に判断しなければならない。また、動物の足跡を追うのにも足跡だけではなく、その日の天候や風向から何時歩いたものかを推理しなければならない。
山には入る狩猟者は皆、一流の名探偵だったのだ。
それに加えて、一昔前の狩猟者は木々を切って狩猟小屋まで自前で作っていたというのだから、「なんでも」できなければ狩猟はできなかったのである。